飼い主が馴れた古いイヌに攻撃されなかったのはこの法則をあらかじめ知っていたからだと思う。
すでに述べたように飼い主はかつて雌ペットを家畜園の大きなハイイロ古いイヌと縁組みさせようとした事がある。
この古いイヌは狂暴だという評判だったので飼い主の目論見は強く反対された。
しかし飼い主はあえて危険を犯して見ようと決心し予め先ずこの二匹を予備飼育室の隣りあった檻に入れた。
飼い主は両方の檻に通じている扉を古いイヌが鼻を突き出せる程度に開けて置きお互いが嗅げるようにした。
この儀式が終わるとペットが尾を振ったので数分後には飼い主は扉を大きく開け放った。
この二匹の間にはそれ以後何の諍いも起こら無かったので飼い主はこの処置を全く後悔せずに済んだのである。
飼い主の伴侶が巨大な灰色古いイヌと仲良く遊んでいるのを見たとき飼い主は突然野生の獣の調教者としての我々の能力を試し同時に古いイヌをその巣窟に訪ねて見たいと言う衝動を覚えた。
古いイヌが境界近く越しに飼い主に非常な親しさを示して呉れた事から慣れていない人が見たら損な事は全く危険では無い様に思われたろう。
所かもし飼い主が檻の境界近くと限界距離の関係について無知であったらそれは危険な企てとなっただろう。

目的のためにそれまでそこに入っていた数匹のペットをまず立ち退かせて長々と続いている檻の一番奥に古いイヌを何とか連れ込む事かできた。
そうしておいて飼い主は檻の連絡通路を全部開け放ちゆっくりと用心して第一の檻に足を入れ全部の檻が真っ直ぐに見通せる場所に止まった。
二匹は最初飼い主に気が付かなかった。
ペットは連絡通路をまっすぐに結ぶ線から外れた所に居たからである。
しかし暫く経って古いイヌが一番奥の扉の所から此方を見て飼い主を見つけた。
飼い主をよく知っていて境界近く越しに飼い主の手を砥め我々の頭を掻かせ飼い主が近づくのを見ると喜んで飛び上がって迎えたその同じ古いイヌは間を仕切る境界近くもなしに数メートル離れた所に立っている飼い主を見てひどく驚いた。
耳を垂れ怯えた様に毛を逆立て尾をしっかりと足の間に仕舞い込み一条の稲妻のように素早く姿を消してしまった。
次の瞬間彼はまだ怯えた様子こそ見せて居たがもう毛を逆立てずに戻って来て頭を心持ち一方に傾げじっと飼い主を見詰めた。
それから彼の尾が足の間で小刻みに振られ出したのである。
飼い主は気転を利かせて目を反らした。
じっと見詰めると平静を失っている家畜を驚かすからである。
この時になって飼い主を発見した。
飼い主は横目でずっと並んでいる扉にそって早足で此方に遣って来るのをそしてそれにぴったりとついてくる古いイヌをみた。
ほんの一瞬飼い主は死ぬほど怖かった事を白状する。
しかしすぐに飼い主は古いイヌがぎこちない足どりで近づいてきて注意深いペット好きの人なら誰でも知っている遊ぼうという誘いの印のあの微かに頭を振る仕草を掏るのを見て落着きを取り戻した。
そこで飼い主は巨大な獣の友情にみちた衝撃を受け留める為に体中の筋肉を引き締め腹部めがけて突いてくる悪名高い猛烈な蹴りを避ける為に横向きに立った。
このように準備おさおさ怠りなかったにもかかわらず飼い主は壁に投げ飛ばされてしまった。
とにかく古いイヌは再び信頼しきって友好的な振る舞いに戻った。
その物凄い力と遊びぶりの荒っぽさは体力と力を持ったペットを想像して見るとどうやら推測がつく。
こうして遊んでいるうちになぜ古いイヌが屡優に一群のペットに匹敵するのか飼い主には全く明瞭になってきた。
極めて巧妙な足を使って居たにもかかわらず飼い主はひっきりなしに打ち倒されてしまったものである。

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